旅、みち徒然。みずかきは海に落っことしてしまったの。創作ぶろぐ。サイトはリンクより。
ファイルの中整理してたら、ともしびとの書き出しがいろんなタイプのが出てきた。知音と轍の力関係とか、協力関係とか、背景事情とか、考えてたんだなーって改めて思う。たぶん、作ったときは生き生きしてたからあんまり気にしてなかったんだけど。
で、しまい込むほどの内容でもないし、中二病でもないので、晒してみることにする。
今のタイプとは若干違った印象を受けられるかもしれない。
脱文があるのだけど、またあとで修正します!ガッコしまる!^^
付け足して、しまい込みにしました。(2010’2.11現在)
で、しまい込むほどの内容でもないし、中二病でもないので、晒してみることにする。
今のタイプとは若干違った印象を受けられるかもしれない。
脱文があるのだけど、またあとで修正します!ガッコしまる!^^
付け足して、しまい込みにしました。(2010’2.11現在)
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ともしびと 第一章
狐というものは、得てして豊穣の神と謳われた。
果たして、私はこの力を沿ったように扱うことができるだろうか。
雪が振っていた。差し込む光は静かな光を纏い、融けることの無いその白が映る世界の色を吸い取る。
言葉どおりの抜け殻で、もう数えるのも退屈になるほどこの祠に閉じこもっている。自虐も言い訳も厭きてしまい、無感情に過ぎる空白と朽ちることのできないこの身は、一体何に役に立つというのであろう。残されたのは、額にきつく結ばれたこの花形の組紐。何故頭にこんなものをくくりつけられているのかが記憶に無い。だが不思議にも取りはずそうとする意思がない。というより、心地よいのだ。さら、と流れる髪が瞼を横切る。俯いて、自分の手のひらを眺めた。白く手の指先が赤くかじかんでいる。痛くはない。
足を伸ばして座ったまま、ただ時間が経つことを待っていた。
時間を求めない世界で生きていた筈なのに、気付けば早く時間が経つことを気にしている。矛盾に満ちているのだなと自覚したけれど、遠のいた時間の数だけ、また自分も退廃しているのだなと気付かされた。
おそらく、今夜も白銀の世界が闇を包むのであろう。
そうして私は目を閉じた。
真実は私の口から出てはゆかない。ただ、目から入ってくるのみだ。
知音は男の感覚と自分のそれを重ね合わせた。
…………。
赤く燃えていた。
あれはかつての自分だろうか。
否、今もさして変わりない。
だとすれば、あの赤の世界にただそびえたつように立った黒い影は誰だ。近づこうとして、凄まじい気迫に圧倒された。はっとして目を開けた。いつも通りのしろい天井が俺を見下ろしているのみだった。
―忘れた。
何かに怯んだのは覚えているのに、夢は霧がかったように靄々となっている。まぁ大概夢ってそんなものだよな。大方つい最近の仕事を思い返していたんだろう。けろりと気を立て直して、社に向かった。今日は生憎の雪模様。舌打ちする。踏みしめる足は、踏み込めばその分囚われそうで、その感覚だけは嫌が応にも体に染み付いてて嫌になる。早く晴れてくれ、と強く願った。
ぱたり
と瞼から水が零れたことで反射的に瞳を開けた。
確かに、感じた。誰かは知らないが、ものすごく強い気を受けた。ほんの一瞬だったが。
ずぶりと刺さる、深い溝のような。覗き込むことすら躊躇われるような、悲しみを。
久しぶりに感じた気は、あまり心地よいものではなかった。どちらかというと、禍々しくて寂しいものである。昔は嫌悪し拒絶したあの感情を、懐かしく思えてしまうのはただ単なる郷愁か。
居場所は図らずとも分かるであろう。運命がそれを許すのなら。
手にした行灯をかかげ、白い世界に足をおろした。
突然視界が黒く覆われ、行灯が舞う。ぼすっと色が弾け、焼けるような音がした。
「ああ貴方なのね?」
ふふ、と衣で口元を隠し微笑みながら、女は言った。
男は一瞬怯んだが、正気を取り戻すとかっと激昂し、切先を女の首に沿わせた。しかし軽々と切先は女の人差し指で触れゆるやかになぞられた。すると柔らかいもののようにしなやかに曲がり、男の手から零れ落ちる。女はますます笑みを濃くし佇んでいる。まるでおかしくてたまらないというように。
「・・・…っクソ!!」
喉の奥から絞りだしたその声は男のもので、下唇を深く咬んでいる。男は青年と少年の間のように見えた。青年のように見えるのは眉間に刻まれた深いしわで、執念を感じさせるものがあった。瞳はぎらぎらと灰色に光り、呼吸は荒い。身形は実に簡素な旅装束で、付け狙っていたにしてはひどく突発的な様相であった。それ故に女は興味を殊更強くしたのである。
「欲しいものは、着物、簪、それとも私?」
心底不思議だというように小首を傾げ、口元は曲線を描いている。
男は呆れたのか冷静になり、しばらく無言で両手を下ろしたまま視線を下に泳がせた。だが徐にはっきりと口を開けた。
「…。俺はどうしてもお前を殺さなくてはならない。しかし暗殺に失敗したのなら、お前に用はない。」
ふむふむ、と頷きながら考える素振りを見せる女に、男は胡散臭いと目を逸らした。そして己の腹を割こうともうひとつの剣に手を伸ばすと同時に手首を握られる。そしてきゅうと音をあげはっきりと手形がついた。
「何をする!」
「はぁ、何って貴方こそ何をしようとなさったのかしら。」しみじみと語ったあと、女は男の目を見て言った。射抜かれる様な鋭い眼差しに思わず男は閉口する。
「随分ね。余程考えなしと見える。」
「…ふざけるな!」
「ふわぁ、怒らせてしまった。申し訳ない。実は私、つい数刻前に起きたばかりでね、頭が回っていないのよ。」
いけしゃぁしゃぁと女が口を開くので、男は最早抵抗する気力と度肝を抜かれ押し黙ってしまう。
「…斬る。」
「せっかちだなぁ。残念ながら私の眼前では死なせないわ。」
やや真摯な眼差しで女は告げる。
男は口の中だけで面倒くさそうに舌打ちした。しかしそれはしっかりと女の耳に入っていたようで、男はぶるっとその身を震わせた。
「うーん。新鮮。ねぇ貴方名前は?」
「答えになっていないから教える名前はない。」
「じゃぁ、土左衛門ということで。」
「待て。それは横暴だろ。」
そう?と癖のように返した女はふと視線を外し、
「私は知音。」と名乗った。そうして照れるようにして初めて目を伏せた。男にはそれが意外だったようで
「昔、長老がほだされて同盟を結んだ、な。」
「ああそんなこともあったかしら?」
相変わらずくすくすと笑い、それからふと真剣な顔つきになった。
「事情を話して下さらないかしら。」
有無を言わさず答えろと言う知音に対し、無機質に轍は言った。
「答えられない。俺には何の答えもない。」
「・・・それってねぇ、轍、私許せない。」
「……。」
「ひとつは、私の親友を殺したこと。二つ目は私を殺すという名目を作ったこと。」
「どうしてそう言える?」
「言ったでしょう?初めに、貴方なのね、って。」
「…・・・・。」
「あいつはかなり根性も性癖も歪んでいたから長老になると前任者が決めたとき誰もが反対したわ。けれど、知っていた?例えば脆く、弱い部分を補うための誇張や生真面目さ。」
「何が言いたい。」
「言葉では伝わらないなにかとしか言いようがないわ。簡単に言うと、あいつをこの世に留めておく絆、根を張るものに目を向けた?」
「それでも、理解できなかったし、言動や行為に嫌悪した。」
「そう。なら仕方ないわね。そうだ、轍ひとつ訊いていい?」
「何だ。」
「あいつは最後に、何を言ってた?」
「……。聴いていないし、分からない。」
「そう。ありがとう。」
そう言って伏せた瞳は、静かに炎が燃えていたことを轍は知らない。きっと顔を覗き込まなければ分からなかったであろう。そして、この出会いを境に知音の中身が変貌してしまうことなど、誰も知ることはできなかったのである。
狐というものは、得てして豊穣の神と謳われた。
果たして、私はこの力を沿ったように扱うことができるだろうか。
雪が振っていた。差し込む光は静かな光を纏い、融けることの無いその白が映る世界の色を吸い取る。
言葉どおりの抜け殻で、もう数えるのも退屈になるほどこの祠に閉じこもっている。自虐も言い訳も厭きてしまい、無感情に過ぎる空白と朽ちることのできないこの身は、一体何に役に立つというのであろう。残されたのは、額にきつく結ばれたこの花形の組紐。何故頭にこんなものをくくりつけられているのかが記憶に無い。だが不思議にも取りはずそうとする意思がない。というより、心地よいのだ。さら、と流れる髪が瞼を横切る。俯いて、自分の手のひらを眺めた。白く手の指先が赤くかじかんでいる。痛くはない。
足を伸ばして座ったまま、ただ時間が経つことを待っていた。
時間を求めない世界で生きていた筈なのに、気付けば早く時間が経つことを気にしている。矛盾に満ちているのだなと自覚したけれど、遠のいた時間の数だけ、また自分も退廃しているのだなと気付かされた。
おそらく、今夜も白銀の世界が闇を包むのであろう。
そうして私は目を閉じた。
真実は私の口から出てはゆかない。ただ、目から入ってくるのみだ。
知音は男の感覚と自分のそれを重ね合わせた。
…………。
赤く燃えていた。
あれはかつての自分だろうか。
否、今もさして変わりない。
だとすれば、あの赤の世界にただそびえたつように立った黒い影は誰だ。近づこうとして、凄まじい気迫に圧倒された。はっとして目を開けた。いつも通りのしろい天井が俺を見下ろしているのみだった。
―忘れた。
何かに怯んだのは覚えているのに、夢は霧がかったように靄々となっている。まぁ大概夢ってそんなものだよな。大方つい最近の仕事を思い返していたんだろう。けろりと気を立て直して、社に向かった。今日は生憎の雪模様。舌打ちする。踏みしめる足は、踏み込めばその分囚われそうで、その感覚だけは嫌が応にも体に染み付いてて嫌になる。早く晴れてくれ、と強く願った。
ぱたり
と瞼から水が零れたことで反射的に瞳を開けた。
確かに、感じた。誰かは知らないが、ものすごく強い気を受けた。ほんの一瞬だったが。
ずぶりと刺さる、深い溝のような。覗き込むことすら躊躇われるような、悲しみを。
久しぶりに感じた気は、あまり心地よいものではなかった。どちらかというと、禍々しくて寂しいものである。昔は嫌悪し拒絶したあの感情を、懐かしく思えてしまうのはただ単なる郷愁か。
居場所は図らずとも分かるであろう。運命がそれを許すのなら。
手にした行灯をかかげ、白い世界に足をおろした。
突然視界が黒く覆われ、行灯が舞う。ぼすっと色が弾け、焼けるような音がした。
「ああ貴方なのね?」
ふふ、と衣で口元を隠し微笑みながら、女は言った。
男は一瞬怯んだが、正気を取り戻すとかっと激昂し、切先を女の首に沿わせた。しかし軽々と切先は女の人差し指で触れゆるやかになぞられた。すると柔らかいもののようにしなやかに曲がり、男の手から零れ落ちる。女はますます笑みを濃くし佇んでいる。まるでおかしくてたまらないというように。
「・・・…っクソ!!」
喉の奥から絞りだしたその声は男のもので、下唇を深く咬んでいる。男は青年と少年の間のように見えた。青年のように見えるのは眉間に刻まれた深いしわで、執念を感じさせるものがあった。瞳はぎらぎらと灰色に光り、呼吸は荒い。身形は実に簡素な旅装束で、付け狙っていたにしてはひどく突発的な様相であった。それ故に女は興味を殊更強くしたのである。
「欲しいものは、着物、簪、それとも私?」
心底不思議だというように小首を傾げ、口元は曲線を描いている。
男は呆れたのか冷静になり、しばらく無言で両手を下ろしたまま視線を下に泳がせた。だが徐にはっきりと口を開けた。
「…。俺はどうしてもお前を殺さなくてはならない。しかし暗殺に失敗したのなら、お前に用はない。」
ふむふむ、と頷きながら考える素振りを見せる女に、男は胡散臭いと目を逸らした。そして己の腹を割こうともうひとつの剣に手を伸ばすと同時に手首を握られる。そしてきゅうと音をあげはっきりと手形がついた。
「何をする!」
「はぁ、何って貴方こそ何をしようとなさったのかしら。」しみじみと語ったあと、女は男の目を見て言った。射抜かれる様な鋭い眼差しに思わず男は閉口する。
「随分ね。余程考えなしと見える。」
「…ふざけるな!」
「ふわぁ、怒らせてしまった。申し訳ない。実は私、つい数刻前に起きたばかりでね、頭が回っていないのよ。」
いけしゃぁしゃぁと女が口を開くので、男は最早抵抗する気力と度肝を抜かれ押し黙ってしまう。
「…斬る。」
「せっかちだなぁ。残念ながら私の眼前では死なせないわ。」
やや真摯な眼差しで女は告げる。
男は口の中だけで面倒くさそうに舌打ちした。しかしそれはしっかりと女の耳に入っていたようで、男はぶるっとその身を震わせた。
「うーん。新鮮。ねぇ貴方名前は?」
「答えになっていないから教える名前はない。」
「じゃぁ、土左衛門ということで。」
「待て。それは横暴だろ。」
そう?と癖のように返した女はふと視線を外し、
「私は知音。」と名乗った。そうして照れるようにして初めて目を伏せた。男にはそれが意外だったようで
「昔、長老がほだされて同盟を結んだ、な。」
「ああそんなこともあったかしら?」
相変わらずくすくすと笑い、それからふと真剣な顔つきになった。
「事情を話して下さらないかしら。」
有無を言わさず答えろと言う知音に対し、無機質に轍は言った。
「答えられない。俺には何の答えもない。」
「・・・それってねぇ、轍、私許せない。」
「……。」
「ひとつは、私の親友を殺したこと。二つ目は私を殺すという名目を作ったこと。」
「どうしてそう言える?」
「言ったでしょう?初めに、貴方なのね、って。」
「…・・・・。」
「あいつはかなり根性も性癖も歪んでいたから長老になると前任者が決めたとき誰もが反対したわ。けれど、知っていた?例えば脆く、弱い部分を補うための誇張や生真面目さ。」
「何が言いたい。」
「言葉では伝わらないなにかとしか言いようがないわ。簡単に言うと、あいつをこの世に留めておく絆、根を張るものに目を向けた?」
「それでも、理解できなかったし、言動や行為に嫌悪した。」
「そう。なら仕方ないわね。そうだ、轍ひとつ訊いていい?」
「何だ。」
「あいつは最後に、何を言ってた?」
「……。聴いていないし、分からない。」
「そう。ありがとう。」
そう言って伏せた瞳は、静かに炎が燃えていたことを轍は知らない。きっと顔を覗き込まなければ分からなかったであろう。そして、この出会いを境に知音の中身が変貌してしまうことなど、誰も知ることはできなかったのである。
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